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コミュニティと防災

防災分野における発展途上国に対する
政府開発援助のあり方

はじめに
 


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1.なぜ災害は増えているのか?

世界中で災害の件数は増加しています。その理由は何でしょうか?A1.異常気象のせい。−そういうこともあるかもしれません。A2.通信網の整備で世界の隅々からの災害の情報が集まるようになってきたから。−それは確かにあると思われます。A3.途上国が援助ほしさに被害を水増しするようになってきたから。−深読みすれば考えられないこともありません。 この理由を考えるためには、まず災害が起こる構造から考える必要があります。

1)発展途上国に集中する被害

1965ー92年の28年間に自然災害により少なくとも360万人が死亡したとされています。死者はアフリカ・ アジア地域の発展途上国に集中し、全体の死者数の9割以上を占めています。アジアでは洪水や サイクロン、地震によるもの、アフリカの死者は干ばつによるものが主な原因です。途上国の災 害では一度の地震や洪水といった災害で数万、数十万人の命が奪われることも珍しくありません 。自然現象であるサイクロンや干ばつが熱帯や亜熱帯に集中し、そこにあるほとんどの国が 発展途上国であるということは、被害が集中する原因の一つですが、先進国に比べて被害が 桁違いに大きいのはそれだけが原因ではありません。

2)弱者を襲う自然災害

それでは途上国では、いったいどういった人が被害を受けるのでしょうか?つまり、 どういった人が洪水に弱い河川敷や、地滑りに弱い急傾斜地に住むのでしょうか?

例えば、バングラディシュでは、地方に住む土地無し層が収入の機会を求めて次々と 都市に流入します。しかしながら技術を持たない彼らの生計の手段は低所得で不安定 なものに限られ、しかも住居は通勤や生活を考えると洪水に襲われやすい低地等、条件が 悪く災害に弱い所にならざるを得ません。また、資産をほとんど持たず、栄養状態も悪いため、 洪水後は子供たちを中心に疫病に対して抵抗力が弱く、かつ、生活の復興も困難な状態に 置かれてしまいます。

ペルーでも同様に、首都リマは地震や洪水の多発地帯ですが、もっとも災害に対して弱いのは 貧困層が住む地区になっています。市内のスラムは古くからの住宅地で、中上流層が郊外に 移動した後に、スラムとなった地区です。今世紀中に人口は30〜40倍に増加したと いわれています。ここは地震の際の避難に必要な空地がなく避難路も狭くなっています。 元は1軒であったところに複数の家族が住んでいるため傷みが激しく、さらに、建材が老朽化 しているにもかかわらず、収入の低さから修繕も満足に行われないため、普段からそのままでも 崩壊する家まであります。

住民の収入も不法で低いものが多く、被災後の生活の復旧においても 困難が伴います。また、洪水に対しても同じように貧困層は洪水に襲われやすい、価値のない土地に 住まざるを得ないため、脆弱であるといえます。

貧困層は、彼らの居住地が災害に対して脆弱であることを知らないわけではありません。しかし、 日々の生活のため、収入を得やすい箇所、交通の便利な箇所を選ばざるを得ません。彼らには、 災害を受けない、という選択はない、できることは、どの災害を受けるかを選択することだけだ、 と言われます。阪神淡路大震災で老人等の弱者に被害が集中しましたが、弱者が被害を受けやすいのは、 この地震に限ったことではなく、災害に共通した現象と言えます。

災害の被害は世界の国々で弱者と言える発展途上国に集中し、中でも貧困層等の弱者に集中する という構造になっています。

3)社会経済構造と脆弱性と災害

これからわかるように、災害とは自然現象と人間の社会経済活動があわせあった結果おこるものです。 つまり、災害が増えているということは、自然現象である豪雨や地震が増加しているわけではなく、 途上国の社会構造が、人口増加、貧困層の増大、森林減少等、災害に対してますます弱くなっている (脆弱性が増加している)ことの表れ、と言えます。

[社会構造] → [脆弱性の増加] →  災害  ← [自然現象]
貧困 危険な建物  洪水

都市化 危険な地域  地震等
人口増加 不安定な生計
森林減少 低収入


2.災害は"防げ"ない?

日本では防災の「防ぐ」をpreventと訳すことが多いようですが、国連機関や英国ではpreventはほとんど使われません。彼らは「災害は防げ(prevent)ない。できるのは、備えること(preparedness)と被害を減らすこと(mitigation)だけである。」と考えているからです。例えばネパールでの年間治水予算は1億円程度です。年間国家予算も800億円程度に過ぎません。このため、行われる治水事業も道路や灌漑施設を守る為だけです。建設省の1つの工事事務所の測量試験費にも満たない治水予算では、人の命を守るための事業は行うことはできません。日本で行われているような災害を防ぐ大規模事業は、多くの途上国にとってその予算規模からしても非常に難しいことと言えます。 それではどの様に災害に備え、被害を減らせばよいのでしょうか?予算がない、ということを念頭に考えると、

1) 地域を巻き込み、地域の防災能力を高める;災害に対する様々な知恵や対応方法をそれぞれの地域ごとで持っていることがあります。例えばパキスタンでは、川に鐘をつなげたロープを渡しておき、その水位まで増水したら、鐘が鳴り出し警報代わりにしているケースがあるそうです。また、洪水の予警報の発令は、その意味が地域住民に理解されて初めて効果的なものとなります。日本での水防活動の際のボランティアベースの水防団の果たす役割の大きさは言うまでもありません。 こうした既存の地域の知識や対応方法を生かすことで、援助を行う側にとってすれば、新たに投入する資源の節約にもなります。そして、地域やNGOを巻き込むことで労力や資金の提供も期待できます。 さらに重要なことは地域住民がプロジェクトに対する所有感を共有すると言うことです。 これまでの援助は往々にして、プロジェクトの終了後、本来であれば途上国に引き渡されるべきものが 、維持管理されず放棄されてしまう失敗例が多かった、というのが各援助機関の反省です。これを防ぎ、 プロジェクトの持続性と効率性を確保するためには、地域住民が自分たちのプロジェクトだという意識を 持ち、維持管理に関わっていく仕組み作り、さらに言えば防災文化の形成のお手伝い、が重要になってくる と思われます。

2) 開発の中で防災を考える・防災から開発を考える;すでに述べたように災害は 貧困や開発問題と切り離して考えることができません。貧困層が都市に出ざるを得ず、災害に対して脆弱な土地に住まざるを得ないのは、現在の社会経済構造にその原因が根ざしていると言えます。 このことを考慮して防災対策を検討することが求められています。例えば、河川敷を居住禁止区域に設定する、という発想はもっともです。しかし、途上国では法律や規制を実施する能力が限られている、もしくは持たない、という状況を考えれば、単なる規制だけでは災害を防ぐことはできません。なぜ人々が河川敷に住まなければならないのか?という原因までさかのぼって考え、貧困対策を一緒に考えることで、初めて人々が河川敷に住むのを防ぎ、そして、被害を減らす、つまり災害を減らすことができる、と言えます。 いくつかのNGOはバングラディシュ等で防災プロジェクトの一部に住民の収入機会の改善を目的とする プログラムも組み込んでいます。貧困の解消が防災に不可欠と考えているからです。 日本のODAでそこまでやるのは抵抗があるかもしれませんが、少なくともそういった視点で 常に防災を考える必要があると言えます。

3.災害とは何か?

災害とは何でしょうか?これまでは洪水、地震、サイクロン等の自然災害を念頭に置いての説明でした。これに、干ばつも含まれることは理解できると思います。さらに、国連機関や英国では内戦や民族紛争、それに伴う難民も複合災害 (complex emergency)として災害に含んでいます。難民問題が災害といわれてもなかなかピンときません が、隣国に流出したルワンダ難民に対する緊急援助も、阪神大震災やバングラデシュ洪水の後の緊急援助 も、そう変わるものではありません。共に医師や、仮設住宅、それに付随するインフラ施設等を必要と します。また、砲火を受けてむちゃくちゃになったサラエボの戦災復興と阪神大震災後の復興も共通する 部分は大きいと思われます。実際、国連機関や英国,NGO等は自然災害を担当する部署が、この難民問題や 内戦も担当しています。つまり、こうした複合災害は自然災害の対策で培われてきたノウハウや資源がそ のまま活用できるということだと思います。

難民や民族紛争が災害に含まれる、というよりも、最近では災害といえばすっかりこの複合災害が中心 になってしまっています。これは、冷戦終結後、こういった事態は旧ユーゴ、旧ソ連、ルワンダ等で頻発 しその傾向は治まる気配を見せていないためです。UNHCR(High Commissioner for Refuges;難民高等 弁務官事務所)の統計では難民の数は1985年の1、000万人から2、600万人に増加しています。このため、例えば、UNDROと呼ばれた、自然災害担当の国連機関がUNDHA (Department of Human Affairs;人道問題局)と名前を変えた後、その活動の中心は複合災害に移って しまっており、自然災害対策はすっかり影が薄くなっています。イギリスでは全援助予算のうち、 13%もの巨額をルワンダ等の複合災害につぎ込む力の入れようです。軒下貸して母屋を取られる、 とはちょっとずれてるかもしれませんが、いずれにしろ、災害関連の援助機関の関心の中心は目下、 自然災害軽減を目指している「国際防災の10年」どころではなく、次から次へと発生する複合災害 への対応です。

このように難民問題や民族紛争も災害対策の一種としてもおかしくないと考えられます。UNHCRへの拠出金が米国についで多いにも係わらず、日本のプレゼンスは現在非常に低いと言えます。日本が自然災害を対象に持つ技術、ノウハウや国内での過去の戦災復興のノウハウを生かす機会は多いと思われます。今後はこれらについても、積極的に関与していくべきではないかと考えます。

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